・ 妻の病状も可なり進行して、この頃は認知症も加勢して、何をやるのにもMoriを困らせる。Moriが何か自分のことが思うようにできるのは妻が週三日通っているデイサービスの日ぐらいである。そのほかの日は目を休めることもままならない。昼寝をしたくてもできない。食事の用意をしているときもである。そんな日々の生活の中で唯一それなりの時間がとれる時がある。妻が絵を描いているときである。
・ 妻は5~6年前までは絵の先生について、油彩・水彩画・ペン画等を習っていた。太平洋展などにも作品を出していた。そんな妻もだんだん絵を描くことから遠ざかる。コロナの影響で何もかもそんな風になってきた。それでも絵を描くのは楽しそうにしていた。ひょっとするとそれが彼女の唯一の気持ちを奮い立たせる方法なのかもしれない。
・ Moriもそれがわかっているので、Moriが何かしたいときには絵の題材になりそうな花など庭に咲いているものを適当にとってきて花瓶に挿し「これ描いてみて」と妻を誘い込む。すると妻は一生懸命に絵に取り組む。Moriの作戦成功。だがこの作戦もこの頃では長続きしない。妻がすぐに飽きてしまうのである。
・ この頃描いた絵の写真を娘にLINEで送ると「いや、もう、ピカソ並み。常人には真似できん。サイン書いてもろて」だとさ。いやはや妻も大したものである。